安陪晴明(あべのせいめい)と呪術の腕をきそった話も多く伝えられている。彼の名前が世に多く知られていくにつれて、晴明を負かすことができれば、上流貴族にとり入れて出世しようとする野心家が続出してきたのだ。
歌舞伎の世界では、安陪晴明(あべのせいめい)は人気者である。彼は、道魔法師(どうまほうし)またの名を蘆屋道満(あしやどうまん)という悪い呪術師を痛快にやっつけている。
道魔法師は、密教の呪術を身に着け、呪い(のろい)を物にのせることによって人を殺すというワザがあった。そこで、彼は、右大臣を務める藤原顕光(すがわらあきみつ)という権力者に近づいた。そして、「左大臣の藤原道長(ふじわらみちなが)さえいなくなれば、あなたを左大臣にすすめます。」とたたきつけた。そのため、顕光は道長を呪殺(じゅさつ)してくれと道魔法師に依頼した。このころ道長は、名高い安陪晴明に身辺を守らせていた。さまざまな呪術を使って道長をねらう者が多かったからだ。
しかし、道魔法師は、自分の呪術は晴明をはるかに上回るものだと主張し、自信たっぷりであった。彼は、朝廷の儀式のときに左大臣が通る道に呪物を埋めておいた。どころが道長が道魔法師のワナに近づくと、晴明が危険を感じ、道長のお供の者に晴明が指摘した場所を掘らせた。すると、恐ろしげな呪物が出てきた。役人たちの調べによって、それは道魔法師が埋めたものだとわかり、道魔法師は重い罰をうけた。
藤原顕光は、その呪術は法師が勝手にやったことだと言い張り、彼はなんのおとがめもうけずにすんだ。
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